作業着のおじさん
一人暮らしを始めてまだ半年くらいの頃の話です。
その日は休みで、昼前まで寝て、起きたあともベッドの中でだらだらスマホを見て過ごしてました。
またうとうとしていたら、インターホンが鳴ったんです。
宅配かなと思って寝ぼけたままモニターを見ると、作業服を着たおじさんが立っていました。
40代か50代くらいの、日に焼けてさっぱりした印象の人でした。
誰?と思って黙ってたら、おじさんがニコニコしながら口を開きました。
「お休みの日にすみませんでした。ご対応ありがとうございました」
そう言って、すぐ画面が切れました。
寝ぼけたまま、思わず「どうも……」みたいな返事をしてしまったんですが、対応なんてしていません。
おじさん、部屋番号間違えてない?
その時は、まあいいかとまた寝てしまったんです。
「設置しましたので」
次の週、また同じような時間にインターホンが鳴りました。
なんとなく嫌な予感がしてモニターを見ると、先週と同じおじさんが立っています。
「お休みの日に何度もすみませんね」
やっぱこの人、部屋間違えてる。
「あの、部屋番号間違えてませんか?」
教えてあげたのに、おじさんはそれを遮るみたいに、変わらない調子で続けます。
「お品物、寝室に設置しましたので」
「はい?」
「雨の日はとくにね、ご注意ください」
そこで、またぷつっと画面が切れました。
「寝室に設置した……?何を……?」
すぐに寝室を見に行きました。
さっきと同じ、寝乱れたベッドとクローゼットがあるだけです。
なんとなく気持ち悪かったけど、管理会社にいうほどでもないし、面倒だし、そのままにしてしまいました。
雨の日
それ以来、またあのおじさんが来ることはないんですけど、雨の日だけ寝室が変なんですよね。
なんというか、生臭いんです。
獣臭いというか、動物飼ってる家みたいな臭い。もちろんうちはペットなんて飼ってません。
晴れている日はなんともないのに、雨が降ると寝室だけじわっとその匂いがするんです。
カーテンもシーツも洗ったし、部屋も換気したし、寝室から離れてるけど、排水まわりも確認しました。
それでも、雨の日だけ、決まって寝室が生臭くなるんです。
「雨の日はとくにね、ご注意ください」
妙にニコニコして、愛想のいいおじさんの声を思い出します。
あの人、私の家に何を置いていったんでしょう?
私、何に気をつけて過ごせばいいんでしょうね?
※この物語はフィクションです。
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◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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