古いコインロッカー
大学4年の頃、就活していたときの話です。
その日は面接の予定が2件入っていたんですけど、1社目の会社の資料がやたら分厚くて、バッグに収まらなくなっちゃって。
会場に大きい荷物を持って入るのも嫌だったので、駅でロッカーに預けることにしました。
それなりに大きい駅なのに、改札近くのロッカーが少なくて、全部埋まっちゃっていて。
仕方なく少し離れたところに並んでいた古いコインロッカーを使うことにしました。
今では珍しい小銭を入れて、鍵をかけるタイプのコインロッカーです。
えらく古いなとは思いましたが、使えればいいかと荷物を入れて、普通に鍵を閉めました。
面接が終わって駅に戻ったのは、もう夕方でした。
着信音
ロッカーから自分の荷物を取り出して、さあ帰ろうというときです。
着信音が聞こえました。
最初は、近くにいる誰かのスマホだと思ったんです。
でも見回しても周りに人はいません。
そうしている間にも、何度もロッカーの中で着信音らしきものが鳴っています。
どこにあるのか探してるときの鳴らし方です。
誰かが中にスマホを入れたまま鍵をかけちゃったんだなと思いました。
「これは困ってるだろうな……」
道端に落ちてたとかなら、どこにあるか、出ておしえてあげられるのに。
鍵の閉まったロッカーの中ではどうすることもできません。
気になりましたが、どうすることもできないので帰ることにしたんです。
留守電
ホームに着いてスマホを見たら、不在着信が入っていました。
知らない番号からです。
面接中に電話かかってきてたのかな?と思いましたが、時間が合いません。
表示時刻はついさきほどです。
宅配とかかな?荷物届く予定とかなかったと思うけど。
留守電が入っていたので、とりあえず再生します。
最初に入っていたのは、駅の雑音でした。
遠くで流れるアナウンス。
電車の音。人の足音。
その次に、硬い金属の扉を開け閉めするような音がしました。
ガン。
少し間があって、もう一度、ガン。
古いコインロッカーの扉を、開けて、閉めたような音。
それから、少しの静寂。
「…………あけてよ」
女の子の声でした。
反射的にスマホを耳から離して、録音を削除しました。
そのロッカー、古いし、人が入れるような大きさのものじゃありませんでした。
イタズラだとしても、どうして私の番号に?どうやって留守電を吹き込めるんでしょう。
その日に受けた企業は2社ともご縁がなくて、その駅にはあの日以来行っていません。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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