窓
上京して初めて住んだのは、古い木造アパートでした。
家賃も安いし仕方ないんですが、部屋も狭くて、隣の建物との距離もおかしいんですよ。
窓を開けると向かいの部屋の窓やベランダがすごい近くて、見たくなくても生活の一部が視界に入るんです。
嫌なのはお互い様でしょうし、なるべく見ないようにして過ごしていました。
でも、一週間くらいした頃に妙なことに気づいたんです。
向かいの部屋が、少しずつ自分の部屋に似てきている。
最初は本当に小さなことでした。
うちが薄いベージュのカーテンを付けたら、数日後に向こうも似たような色のカーテンに変わったんです。
その時はたまたまだと思いましたよ。
カーテンの色味なんてどれも似たようなもんですし。
でもそのあと、僕が窓際に小さい扇風機を出したら、向こうも同じ位置に似たような扇風機を置くようになって。
壁際に段ボールを寄せたら、向こうも同じように壁際へ段ボール箱を積んでるのが見えるんです。
そこでさすがに、あれ?と思いました。
自意識過剰かもしれない。
そう思いながらもなんとなく気持ち悪くて、なるべく窓際に近づかないようにしました。
赤い座椅子
ある日、換気しようと窓を開けた時、向こうの部屋の窓際に座椅子が置かれているのが見えました。
赤いチェック柄の座椅子。
僕が実家から持ってきたものとよく似ています。
そこに誰かが座っているんです。
後ろ姿でしたし、男性か女性かもわかりません。
でも、服がね、変な色のTシャツなんですよ。ショッキングピンクの。
僕が高校の時に着ていたクラスTシャツにそっくりなんです。
色見本の中で1番派手なやつにしようって、友だちとふざけて選んだピンク。
あの座椅子についてる背中に「3年C組」って書いてあったらどうしようって、ありえないことを考えてしまって……。
こちら側の異変
その夜は早めにカーテンを閉めて、窓のほうは見ないようにしていました。
でも、閉め切ったカーテン越しにも、なんとなく向こうから見られている感じがして、落ち着きませんでした。
それでもいつの間にか眠っていたみたいです。
翌朝、学校に行く準備をしようと布団から出て、ぎょっとしました。
座椅子の背に、ピンクのTシャツがかかっていました。
上京する時、実家に置いてきたはずのクラスTシャツ。
なんでこの部屋にあるのか、なんで知らない間に着て脱いだみたいに座椅子にかかってるのか、さっぱりわかりません。
カーテンを開けて向こうの部屋を確認する勇気はありませんでした。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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