新しいオフィス
自分の勤め先、ベンチャーなんですけど、最近オフィス移転したんですよ。
いかにも社長の趣味っぽい、でっかいガラス窓のオフィス。
晴れた日とか暑くて仕方ないんで、結局昼間はずっとブラインド下ろしてて。
まあでも、社長の気持ちもわからんでもないので、夜1人で残ってる時とかは自分もあえてブライド上げて仕事してるんですけどね。
なんかちょっとテンション上がるじゃないですか、都会のオフィスって感じで。
ビル街なんで、向かいのビルの様子とかも見えるわけですよ。あそこもまだ電気ついてんな、残業してんだなとか。
で、自分の席からちょうど目に入るところに、どこかのビルの屋上が見えていたんです。
どこのビルなのかはわからないんですけど。
屋上
昼間は意識したこともなかったんですけど、ある日遅くまで仕事をしていた時に、そこに人が立っているのが見えたんです。
最初は、設備点検か何かの人だと思いました。
でも、結構夜更けでしたし、屋外であんな時間まで作業するものかな、とも思いました。
しかもその人、あんま作業してるようにも見えなくて。
アンテナの間に、まっすぐ立っているだけなんですよ。
その時は、何の人なんだろって不思議に思ったけど、それだけでした。
でも、それからも残業で遅くなった日、ふと窓の外を見ると、またいるんです。ただ立ってるだけの人。
しかも、見つけるのはいつも自分がフロアにひとりで残っている時だけでした。
昼間は人が立ってるとこなんてみたことないんで、同僚に話してもアンテナが人みたいに見えるだけなんじゃない?なんて言われたりして。
ある夜、かなり遅くまで仕事が長引いてしまったことがありました。
フロアにはもう自分しか残ってなくて。
静まり返ったオフィスで、パソコンの画面ばかり見ていたせいか、肩も目も痛くて、気分転換に立ち上がって窓の外を見たんです。
向かいの屋上には、やっぱりその人影が立っていました。
「……ん?」
いつも棒立ちだった人影が、こちらに向かって手を挙げています。
今日はどうしたんだろうって見てたら、またすっと腕を降ろして棒立ちに戻りました。
外側
翌朝、出社したら、窓際の席がちょっとしたさわぎになっていました。
「え、なにこれ……」
窓ガラスに、泥のついた手形がついているんです。
その瞬間、昨夜の人影のことが頭をよぎりました。
「気持ち悪いな〜、早く拭こうよ」
そう言うと、なぜかみんなしんとして、気まずげに目配せし出しました。
「……あの、これ、外側からついてるみたいで」
「えっ」
最初に出社した今井さんが手形を見つけて、当然クリーナーで拭こうとしたんだそうです。
でも、擦っても落ちないどころか手応えがない。
うちのフロア12階なんです。
窓のど真ん中に手をつくなんてできっこない。
それからうちの会社、昼夜関係なくブラインドは降りたままが暗黙の了解になりました。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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