お地蔵さん
うちの近所には、赤い前掛けをつけたお地蔵さんが三体並んでいる場所がありました。
田んぼへ下りる細い坂の途中で、学校の帰りにも、友だちと遊びに行く時にもよく通る道です。
祖母はお地蔵さんの前を通る度手を合わせて、僕にも昔からよく言いきかせました。
「お地蔵さんの前では騒いだりしないのよ」
「見守ってくださってるんだからね」
沢遊び
ある夏、友だちと立ち入り禁止の沢でこっそり遊んだことがありました。
浅いけど石が滑るし、急に深くなるところもあるから、危ないよっていわれてたんですけど……。
その日は暑くて、みんなで足だけ浸かるならいいだろうって、靴を脱いで入っちゃったんです。
水は冷たくて気持ちよかったし、誰も怪我しませんでした。
だから、大人のいいつけを破ったのもバレないはずだったんです。
翌朝、学校へ行く途中でお地蔵さんの前を通った時、赤い前掛けがじっとり濡れていました。
朝露とか、そういう濡れ方じゃありません。
水に浸かったみたいに色が変わるくらいびしょびしょだったんです。
つまみ食い
こんなこともありました。
夕飯前にお腹が空いて、台所に置いてあったチョコレートを一個だけこっそり食べたんです。
包み紙もちゃんと丸めて捨てたし、誰にも見つかりませんでした。
翌日の帰り道、お地蔵さんの足元にチョコレートの包み紙が落ちていました。
赤い、小さい包み紙です。
きのうつまみ食いした、あのチョコレートの。
「見守る」ということ
決定打は、あれです。
一緒に帰っていた友だちと、道ばたで大きな蛾を見つけた時。
最初はみんなで「でかい」「ボスじゃね?」とか言って騒いでたんですけど、その蛾、大きいかわりに動きが鈍くて。
1人が枝で突ついたらそいつがごろんって転んだんですよ。
そしたらみんな突ついたり羽根のとこ踏んでみたり、エスカレートしちゃって……。
面白がって羽もいで、殺しちゃったんです。
今思うと残酷ですけど、子どもってわりと平気でそういうことするじゃないですか。
でも翌朝、またお地蔵さんの前で足が止まりました。
真ん中のお地蔵さんの足元に、蛾の羽がきれいに置かれていたんです。
昨日、友だちがちぎったのと同じ、茶色くて大きい羽でした。
風で飛んできたという感じじゃありません。
石の台座の上に、誰かが揃えて置いたみたいに並んでいたんです。
さすがに怖くなって、祖母に「あのお地蔵さんって、ちょっと怖いよね」とこぼしました。
祖母は僕のほうを一瞥して、「そうだね」とうなずきました。
「見守るって、見逃すってことじゃあないからね」
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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