放課後の路地裏
子どもの頃、近所に野良猫がたくさんいる路地がありました。
狭くて薄暗い、車も入れないようなところで、小学生にはちょっとした秘密基地で楽しかったんです。
学校帰りに通るたび、どこからか猫が出てきて、塀の上や室外機の横に座っていたのを覚えています。
友だちと一緒に、猫を構いながらよく探検しました。
立ち止まる猫
最初に気づいたのは僕だったと思います。
その路地の途中にちょっと奥まったスペースがあるんですけど、なぜかそこだけは、どの猫も絶対に入っていかないんです。
手前の角までは普通についてくるのに、そこまで来ると急に立ち止まる。
そのまま座り込んだり、引き返したりして、絶対にその先へは行こうとしませんでした。
どの猫も、耳だけぴんと立てて、警戒するようにじっと奥を見ているんです。
ふつうに、なんでだろう?って、不思議に思うじゃないですか。
友だちはビビって着いてきてくれなかったので、ある日の放課後、ひとりでその奥の道に入ってみたんです。
本当にただの好奇心でした。
近所だったのもあって、怖い場所だとは考えもしませんでしたし。
人懐こく脚の間を歩いていた三毛も、甘えて鳴いていたトラ猫も、僕がそこに入ろうとすると急に静かになりました。
いつもと一緒です。猫たちは鳴きもせず、追いかけても来ず、ただ道の手前からこちらを見ていました。
思い出せない
僕は構わず奥に進んで……その先のことが、どうしてもうまく思い出せません。
路地がもう少しだけ細く続いた先に、誰かの家の勝手口みたいなものがあった気がします。
湿った木でできた、人が出入りするには妙に背が低い。小さくて半端な戸口です。
その戸口を、ノックしたと思います。
「はあい」と返事があって、そのあと誰かが出てきたはずなんですが……思い出せないんです。
どのくらいそこにいたのか、そこで何をしたのか、いつどうやって帰ったのかも覚えていません。
気がついた時には、元の路地に立っていました。
いつ引き返してきたのかわからない。それに、さっきまで塀の上や足元にいた猫が、一匹も近くにいないんです。
少し離れたところから、何匹かがじっとこっちを見ていました。
呼んでも来ないし、しゃがんでも寄ってこない。
その日を境に、猫が一匹も寄ってこなくなりました。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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