駐輪場
いつも使ってる駅前の駐輪場、月極の契約エリアが奥にあって、手前が時間貸しのエリアなんです。
私は通勤手段がまちまちなので、いつも時間貸しのほうにしか停めないんですけど。
当然、夜遅くなって終電近くなると時間貸しのエリアからは台数が減っていきますよね。
だから、目に付いたんです。
前と後ろに子どもを乗せる座席がくっついてるママチャリ、あるじゃないですか。
あれが停まってたんですよ。
昼間なら何とも思わないんですけど、そんな自転車が深夜近くまで時間貸しエリアに残っているのは、ちょっと不自然でした。
月極のほうならまだわかります。
でも時間貸しって、だいたい駅を使う人が一時的に停める場所じゃないですよね。
駅に停めてるの忘れて歩いて帰っちゃったとか?
でも、1人ならまだしも子ども連れてて自転車忘れるって、あります?
この駐輪場、どこかおかしい
「まあいいや、帰ろ」
精算機の前まで歩いていく途中、後ろで自転車のベルの音がしました。
チリン、と一回だけ。
横を通った拍子に鞄が当たっちゃったのかなと思って振り返りました。
残ってる自転車も少ないし、スカスカで、うっかり当たるなんてことなさそうだけど……。
精算機に小銭入れて、ロック解除になるの待ってる時に、またベルの音がしたんです。
絶対変じゃないですか。
私、動いてないし、どこにも当たってないし。
月極エリアに誰かいるのか?と思って目を凝らしてみても、誰もいません。
そもそも、事故みたいな鳴り方じゃないんです。
誰かが面白がってガチャガチャやる、チリンチリンってやかましい音。
気味が悪くて、早歩きで自分の自転車のところに戻りました。
気配
自転車の鍵を外した瞬間です。
すぐ横で、チリン、とベルが鳴りました。
隣のスタンドは空っぽなのに。
思わず、あの子乗せ自転車のほうを見ました。
前の子ども用シートが、誰かが今まさにそこから降りたみたいに、ぐらりと大きく揺れていました。
間違いなく風ではありませんでした。
上からただ揺れたんじゃなくて、そこに座っていたものが足を下ろして立ち上がったみたいな、そんな揺れ方だったんです。
その瞬間、何も考えられなくなって、私は慌てて自分の自転車にまたがります。
後ろを見ないまま、ほとんど逃げるみたいにペダルを踏んで、駅前を抜けて、家まで一気に帰りました。
それ以来、どれだけ遅くなっても、あの駐輪場には停めないようにしています。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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