収納
引っ越した部屋には、妙な収納スペースがありました。
ワンルームの端についている造りつけの収納です。
押し入れというには細くて、クローゼットというには幅が足りない。
扉を開けると奥行きだけはあるんですけど、ハンガーパイプも棚もなくて、何を入れるのが正解なのかよくわからないんです。
布団はもちろん入らないし、衣装ケースも入れづらい。
段ボールを詰めるにも不便で、結局そこだけ空のままにしていました。
ひと一人分
ある休日、部屋の片づけついでに、改めて中をよく見てみることにしました。
光が入りにくくて見えづらいんですが、壁の奥のほうに、細い擦れ跡みたいなものがいくつもあります。
何かものを出し入れしたというより、内側からなにかをこすりつけたみたいな、変な傷でした。
なんとなく、嫌なことを考えました。
一度考えついてしまうと確かめずにいられなくて、私は身をかがめて、そっと中に足を入れてみます。
思ったより簡単に入れました。
まっすぐ立つのは無理です。
膝を折ってしゃがみ込むと、背中も肩も、妙なくらいぴったり収まります。
何してるんだろう、と思ってすぐ出ようとしました。
身を起こしかけた時、頭のすぐ横の壁にも、細い引っ掻き傷がいくつも残っているのに気づきました。
膝を抱えて座った人が、すぐ横の壁を必死に掻いたみたいな位置です。
収納から這い出て扉を閉める時、外枠に小さな穴がいくつか残っているのに気が付きました。
上下に二つずつ、金具か何かを取り外したみたいな丸い穴。
その部分だけ枠の色が少し違っていて、以前そこに何か別の部品がついていたのがわかります。
仕舞われていたもの
外鍵だ、と思いました。
さっき自分が中にしゃがんでいた感覚が、急に現実味を持ってよみがえります。
悩みぬいた末、掃除機とフローリングワイパーを入れておくことにしました。
でも、そしたらありえない頻度で倒れてるんですよ。
扉を閉めた衝撃とか、近くを通ったときの振動とかじゃないんです。なんにもないのに、棚の中で「こつん」って音を立てて倒れるんです。
結局、その収納は空っぽのまま、何を入れるのが正解なのかわかりません。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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