林の中の秘密基地
子どもの頃、近所の林の中に変な建物がありました。
地面に半分埋まっているみたいな、天井の低い建物で、入口だけがぽっかり黒く開いているんです。
何だったのか、大人に聞いても誰もはっきり教えてくれませんでした。
僕たちはそこを秘密基地にしていました。
学校が終わったあと、ランドセルを置いてから集まって、懐中電灯を持って林へ入るんです。
入口の前に立つと、いつもひんやりしていて、夏でも空気が少し冷たかったのを覚えています。
中は広くありませんでした。
湿った土の匂いがして、ざらざらした壁伝いに奥に行くほど暗くなります。
子どもにはわくわくする場所で、みんなでお菓子を持ち込んだり、拾った漫画を置いたりして遊んでいました。
ただ、今思うと変だったことがひとつあります。
合言葉
あそこへ入る時、誰かが必ず「いる?」って声をかけていたんです。
遊びの合図みたいなものでした。
すると、たまに中から「いるよ」って返事が返ってくるんです。
最初は、先に来ていた友だちの声だと思っていました。
実際、僕らは5人とか6人のグループで遊んでいたので、誰かが先に入っていることも珍しくなかったんです。
でも、どうも人数が合わないことがありました。
たとえば、僕が最後に林へ着いて、入口の前にいたのが4人。
中から返事がして、じゃあ先に1人いるんだなと思って入る。
でも、入ってみると誰もいないんです。
「あれ、今返事したの誰?」
そう聞いても、みんなきょとんとしていました。
一度や二度じゃありません。
「いる?」
「いるよ」
そのやりとりをしたはずなのに、入ってから数えると、やっぱり1人足りない。
逆に、誰もまだ来ていないと思って中へ入ると、みんなもう集まっていて、「今来たの?」と聞かれることもありました。
子どもの頃は、それでもあまり深く考えませんでした。
遊び場がなくなるほうが困るから、誰も大人には言わなかったのかもしれません。
「いるよ」
それから何年も経って、大人になってから、ふと思い出してあの場所を見に行ったことがあります。
建物はまだ残っていました。
草に半分埋もれて、入口のコンクリートも少し崩れていて、昔よりずっと小さく見えました。
でも、入口の前に立った時、子どもの頃と同じ気持ちになったんです。
なんとなく、声をかけないと入ってはいけない気がしました。
だから、つい昔みたいに言ってしまったんです。
「いる?」
少し間があいて、中から返事がありました。
「いるよ」
聞いた瞬間、全身がぞっとしました。
楽しそうな、子供の声でした。
もちろん、中には入りませんでした。
でも今でも時々思うんです。
あの頃、私たちがいつも人数を1人分数え間違えていたんじゃなくて、最初からもう1人、あそこにいたんじゃないかって。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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