地下通路
地元の駅、結構大きめのターミナル駅で、地下通路が方々に一駅分くらい伸びてるんです。
車通りの多い地上を歩くより早いし、雨の日でも濡れないので、よく使っていました。
白いタイルの真ん中に黄色い点字ブロックがずっと伸びている道。
毎日のように通っていたので、地上への出口も非常口の位置も、景色はほとんど覚えていました。
分岐
ある夜、ぼんやり足元を見ながら歩いていたら、点字ブロックが変なところで枝分かれしていたんです。
まっすぐ続いているはずの黄色いブロックが、三本ほど横に逸れて、右の壁際まで伸びている。
でも、その先には何もないんです。
扉も階段もない。ただ白い壁があるだけです。
え、こんなの前からあったっけ、と思って立ち止まりました。
工事中かな?とも思ったんですけど、案内板も貼り紙もないし、ブロック自体も新しく見えません。
ずっと前からそこにあったみたいに馴染んでいるんです。
点字ブロックがT字になったその壁の前に、泥で汚れた靴跡がいくつもついていました。
何人分も、壁に向かって立っていたみたいに、そこだけ不自然に足跡があるんです。
気味が悪くなって、その日は早足で通り過ぎました。
次の日の帰りに見たら、点字ブロックはまたまっすぐ一本に戻っていました。
分岐なんて最初からなかったみたいに。
見間違いだったのかな、疲れてたのかも、と思うことにしました。
実際、その頃は残業続きでしたし。
戻ってくる
また遅くなった日のことでした。
通路に人はほとんどいなくて、自分の足音だけがやけに響いていました。
嫌な予感がして、なんとなく足元に目をやると、またあの分岐があったんです。
黄色い点字ブロックが、壁に向かって確かに伸びている。
その先の白い壁の前に、また靴跡がありました。
なんなんだろう、気持ち悪いな。立ち止まって観察してみると、おかしなことに気づきました。
靴跡の向きです。
前に見た時は、壁の前で足踏みしているようだと思ったんですが、逆でした。
跡は、壁に向かってついているんじゃなかった。
壁のところから、こちらへ向かってついていたんです。
白い壁の前から、点字ブロックの分岐に沿って、何人分もの靴跡が通路の中央へ戻ってきている。
まるで、壁の向こうから誰かが出てきて、こっちへ歩いてきたみたいに。
そのいちばん新しそうな跡が、私の立っている少し手前で途切れていました。
そのまま1番近くの出口まで走って、階段を駆け上がりました。
地上に出るまで一度も後ろを見ませんでした。
それ以来、その地下通路は使っていません。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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