夢
変な夢を見たんです。
夢の中で僕は高級旅館みたいな、綺麗な和室にいました。
高級旅館なんて泊まったことないですけど、そんな感じの雰囲気の部屋だったんですよ。
広縁みたいなスペースがついていて、そこに大きな窓があって。
広告とかで見るじゃないですか。きれいな渓谷とか湖とか、そういう景色を見下ろすために作られた部屋、という感じでした。
でも、窓の外に見えるのは大自然のきれいな景色じゃないんです。
僕の住んでいるマンションのベランダが見えるんですよ。
こんな立派な部屋にいるのに、窓の外に見えるのは、見慣れたベランダと、いつものマンションの外壁なんです。
想像力も貧しいから、こんなちぐはぐな夢を見るんだなあとちょっと悲しくなりました。
実際、高級旅館の解像度は低いですし。
でもせっかくだから、窓のそばに立って、自分の部屋を眺めてみたんです。
旅館の窓から
カーテンの隙間からリビングが少し見えていて、一緒に住んでいる彼女がひとりで座っていました。
スマホを見ているのか、俯いてじっとしています。
声をかけようか迷っていたら、彼女がふっと顔を上げました。
その瞬間だけ、夢の中なのに妙に現実っぽい感覚がありました。
見つかった、と思ったんです。
彼女は少し驚いたような顔をして、それから何か言いました。
窓越しで、離れていて声が聞こえません。
口が動いているのはわかるんですけど、何を言っているのかまではわからない。
彼女はだんだん不安そうな顔になって、何かを言いながら、少しずつ窓際へ近づいてきます。
彼女がベランダの戸を開けたところで、夢が覚めました。
夢の境
朝でした。
カーテンの隙間から光が入っていて、いつもの自分の部屋です。
彼女はもう起きていて、キッチンで朝食の準備をしていました。
「おはよう」と声をかけると、彼女が僕を見て心配そうに首を傾げたんです。
「ねー、昨日めっちゃ寝ぼけてたの覚えてる?」
「え?」
「夜中、なんか窓のとこ立ってぼーっとしてて、ちょっと怖かったよ」
全く覚えていないどころか、僕は真逆の夢を見ていました。
夢の中では窓際に立ってこちらを見ていたのは彼女の方です。
「あたしが何回か呼んだのに、全然返事しなくてさ」
「えー……夢遊病とかなんかなあ?」
「まあまあ、何回か続くようなら考えたら?」
その時ふとベランダが目に入ったんです。
サンダルが、片方だけひっくり返っていました。なんだか、それが妙に気になって。
「僕、昨日寝ぼけてベランダに出た?」
そう聞くと、彼女はすぐ首を振りました。
「いや?その辺でぼーっと立ってただけ。見守ってたら、そのままベッド戻ってったし」
風かなにかで飛ばされただけかもしれません。
でもなんだか、あの夢がひっかかります。
夢の中で彼女は僕になにを伝えようとしたんでしょう?
昨夜の僕は、なんのためにここに立ってたんでしょうか?
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
【SNS】
X:@a_mirin0223
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

