査定依頼
不動産会社で働いてるんですけど、自分は物件のご案内とかのいわゆる窓口業務より、売却希望の物件査定とかを担当することが多いんですね。
その日は、郊外の古い戸建てについて問い合わせが来ていました。
遠い親戚の家を相続したとかで、依頼者の方もそちらには住まわれてないとのことでした。行ったことも2、3回程だと。
まずは現地の写真を何枚か送っていただくようにお願いしました。
丁寧な方で割とすぐにメールをいただけて、現地まで行って撮影してくださったそうです。
かなり古い家でした。
山の中に場所に建っている二階建てで外壁もくすんでいるし、庭も手入れが止まっている。
ぱっと見た印象は、よくある「住まなくなって長い家」。
ただ、古いなりに中はそこそこきれいでした。
本格的に壊して作り替えなくても修復すればどうにかなりそうなくらい。
ただし1枚、変な写真がありました。
部屋の真ん中にハシゴが立てかけてあったんです。
不自然なハシゴ
細い金属のハシゴで、家の中に備え付けてあるものでもなさそうだし、なんだろう?
天井に真っ直ぐ伸びているように見えます。
屋根裏にスペースがあるなら、そこも写真に撮ってくださると思うんですよね。
でも、部屋数としては申告されてないですし、どこに、なんのためにかけてあるハシゴなのかわからないんです。
念のため、依頼者の方に電話しました。
「お写真拝見しました。ひとまず現地は後日確認できればと思うのですが、一点だけ……。5枚目のお写真のハシゴはどちらへ上るためのものでしょうか」
「……ハシゴ、ですか?」
本当に、何を言われているのかわからない、怪訝な声でした。
私は画面を見ながら、部屋の真ん中に立てかけてあるハシゴのことを説明しました。
すると相手も手元で写真を開いたらしく、しばらく無言になったあと、小さく言ったんです。
「え、何これ」
「えっ?」
「いや……こんなもの、なかったはずです。家の中にも置いていません」
冗談ではなさそうです。
むしろ、こちらに確認したいのをこらえているような、本気で気味悪がっている感じでした。
「これ、ほんとに私が送った写真ですよね?」
「はい。いただいた20枚のうちの5枚目です」
こちらがそう答えると、また少し沈黙がありました。
それから依頼者の方は、できれば現地確認の時に一緒に見てほしいと言いました。
私もそのつもりだったので、後日立ち会いの日程を決めて電話を切ったんです。
降りてくる
通話が終わってから、もう一度写真を見ました。
やっぱりハシゴは部屋のど真ん中に立っています。
その家のどこにもつながっていない、上る先のないハシゴ。
なんとなく、メールの添付画像を拡大してみました。
古い家の壁、窓、天井に伸びたハシゴの先。
その時気づいたんです。
ハシゴのいちばん上の段に、誰かの手がかかっていました。
なにかが降りようとしてくるように指だけが四本、見えていたんです。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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