図面と違う
僕はリフォーム会社で現場監督をしています。
古い木造住宅で、耐震補強工事っていうのをすることがあるんです。
今の耐震基準に合わせるために、一度壁を剥がして柱や筋交いの状態を確認して、必要なら補強材を入れていく工事なんですけど。
図面だけではわからないことも多くて、実際に壁を開けて初めて家の造りがわかることも珍しくありません。
その家もそうでした。
古い木造住宅で、築年数ははっきりしません。
事前にもらっていた図面を見ると、玄関を入った正面奥に階段があります。
ところが現地へ行くと、階段は玄関のすぐ脇にありました。
「途中で移設したんですかね?」
何気なくそう聞いてみると、施主さんは「ええ」とだけ答えます。
古い家ではたまにあることなので、その時はとくに気にしませんでした。
工事が始まり、旧図面では階段が描かれていた場所の壁を開けることになったのです。
壁の中
石膏ボードを剥がし、下地を外していくと、「あれ?」大工さんが手を止めました。
壁の向こうに、古い木の階段が残っていたんです。
途中まで解体された跡もありません。
立派な木材がそのまま壁で覆われていました。
「なんだこれ。撤去しないで塞いじゃったのか」
それが不思議で、解体を面倒がったというより、最初から階段を残す前提で壁を作ったような納まりかたなんです。
私は施主さんに聞きました。
「前の階段、どうしてあんなふうになってるんですか?」
施主さんは困ったように首を傾げて、「撤去できなかったので」とだけ言います。
「できなかった、というのは?」
「あのー……だから、新しい階段を作ったんです」
それ以上は何も話してくれません。
「降りてきちゃうから」
休憩時間、おばあさんが差し入れを持ってきてくれました。
世間話のついでに、「壁の中から昔の階段がきれいに出てきましたよ」と話してみました。
そうすると、おばあさんは「ああ、そりゃあそうよ」と。
「夜になると降りてきちゃうから、埋めたの」
工事は予定どおり終わりました。
耐震補強も無事に終わり、壁もきれいに塞ぎ直しました。
もちろん、古い階段はそのまま壁の中です。
最後の確認を終えて玄関を出ようとした時。
家の中から『ぎし』と木が鳴る音がしました。
誰かが階段を一段だけ踏んだ時みたいな音。
家の奥から。
壁の中へ埋めたはずの、あの古い階段の方でした。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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