奇妙な事故
保険会社のコールセンターで事故受付の仕事をしています。
事故があると、お客様から状況を伺って、必要ならドライブレコーダーの映像も確認します。
その時確認したのは、トラックの自損事故でした。
現場は古いガード下です。高さ制限は2.7m。
写真を見た瞬間、「いや、入れないでしょう」と思いました。
お客様のトラックは3メートル近くあります。
明らかに通れない。運転手もわかるはずです。
「どうして入っちゃったんですか?」
運転手の方は「そうですよね」と、ご自分でも混乱されているようでした。
「……入口に、おじいさんが立ってたんですよ」
「おじいさん?」
「工事の誘導員みたいな格好で。『大丈夫、大丈夫』って手招きしてたから」
現場に誘導員はいませんでした。
警察にも確認しましたが、付近で工事もありません。
安全確認
ドラレコを確認しました。
運転手さんの言う通り、トラックはゆっくり減速して、ガード手前で一度止まります。
降りて確認しようとしたんでしょう。運転席のドアを開けようとしたところで、なぜか車内に身体を退いてしまいました。
で、窓を開けて、外に何かお話されてるんです。
カメラでは車外にだれかいる様子は確認できません。
「え? 本当に?」
「ゆっくり行ってもむりそうですけど……」
……1人でお話されてるように見えました。
でも、明らかにだれかと会話している調子です。
それから1分くらい、トンネルに入れるかどうか検討する運転手さんのひとり言が続きます。
最初は通れないだろうと言っていたのに、まるで誰かに説得されたみたいに意見を変えていくのが不気味でした。
最終的に、「じゃあ、見ててくださいね〜」と言って発進してしまいます。
直後、ガンッ!という音と同時に映像が大きく揺れて、記録は終わってしまいました。
招く者
事故自体は物損だけで済みました。
後日、保険金の支払いも終わり、この件もそれで終わると思っていたんです。
なんとなく、映像データを削除する前に、もう一度だけ見返しました。
運転手さんが誰もいない車外に向かって話す場面と、その直前が少しだけ気になっていたんです。
トラックが止まる少し前。
ガード下の入口に、小さく人影のようなものが立っています。
画質が荒くて、何なのかはわかりません。
でも一瞬だけ、その影が片腕を上げるんです。
まるで、「おいで」と言うように。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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