深夜の病院に人影
私の家の近くには、月に一度通っている病院があります。
ある日の深夜、コンビニへ向かう途中に病院の前を通ると、1階の受付だけ明かりがついていました。
受付には見覚えのない看護師が一人、静かに入口を見つめています。
「夜勤の人かな」
そう思って通り過ぎましたが、その病院は夜間救急を受け入れていません。
何となく気になり、数日後の通院日に受付で尋ねてみました。
「あの……先日の夜中、受付に看護師さんがいましたよね?」
受付の女性は不思議そうな顔をします。
「夜間は病院を閉めてますし、職員は誰も残っていませんよ」
「でも、確かに見たんです」
そう言っても「見間違いではないでしょうか」と返されるだけで、私はモヤモヤしたものを抱えながらも待合室で待つことに。
そのとき、やり取りを聞いていたおばあさんが私の隣に腰掛けると、小さな声で話しかけてきました。
「……あんた、その人を見たのかい」
おばあさんが語る「真実」
「もう20年以上前、この病院には誰にでも優しい看護師さんがいてね。診療が終わっても、具合の悪そうな人を見つけると救急車を呼んだり、救急病院へ連絡したりして助けてたんだよ」
「その人は突然亡くなってしまった。でも、それからなんだ。夜中の病院で看護師を見たって話が、ときどきあるんだよ」
私は思わず息をのみました。
おばあさんは少し笑って続けます。
「夜中に『受付の看護師さんに近くの救急病院を教えてもらった』なんて話もある。でも、防犯カメラには誰も映っていなかったそうだ」
「じゃあ、私が見た人も……?」
そう尋ねると、おばあさんは穏やかに首をかしげました。
「本当かどうかはわからないさ。でもねぇ……」
そう言って受付へ目を向けます。
「誰かを助けたいって気持ちを残したまま逝った人なら、死んでも患者を気に掛けていたって不思議じゃないだろう? 私は、そういう優しい人が今も誰かを見守っているって信じた方が好きだけどね」
「……そうですね」
私の返事を聞いて、おばあさんは微笑んでいました。
それ以来、夜中に病院の前を通るたび、私は受付を見てしまいます。
あの看護師さんを見かけることは二度とありませんでした。
あれが本当に幽霊だったのかは、今でもわかりません。
それでも、誰かを助けたいという気持ちが今もあの病院に残っている。
私は、そんな話を信じてみたいと思っています。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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