迷惑な来客
私が今の団地に引っ越してきたのは、半年ほど前のこと。
建物はかなり古いものの駅から近く、家賃も安いため、とくに不満もなく暮らしていました。
そんなある日の深夜、玄関を叩く音で目が覚めました。
“コンコン”
時計を見ると、時刻は午前2時を過ぎています。
「回覧板、お願いしまーす」
扉の向こうから聞こえてきたのは、年配の女性らしき声でした。
こんな時間に回覧板なんておかしい。
気味が悪くなった私は返事をせず、そのまま布団へ戻ることに。
隣人の不思議そうな顔
翌朝、仕事へ向かおうと玄関を開けると、足元に古びた回覧板が置かれていました。
恐る恐る中を確認しましたが、書かれているのは清掃やゴミ出しについてのお知らせばかり。
内容自体におかしなところはありません。
隣の部屋へ回すものだろうと思い、出勤時に隣人へ渡すことにしました。
「これ、うちの前に置いてあったんですけど」
ところが、回覧板を見た隣人は不思議そうな顔をします。
「この団地、回覧板なんて使ってませんよ?」
気になって管理人にも確認すると、以前は使っていたものの、何年も前に廃止されたとのことでした。
昨夜のことも話しましたが、心当たりはないようです。
結局、回覧板は管理人に預けることにしました。
ところが一週間ほど経った深夜。
“コンコン”
また玄関を叩く音が聞こえてきます。
いつもの言葉が聞こえない
「回覧板お願いしまーす」
前と同じ年配の女性の声でした。
私は息を殺し、音がしなくなるまで布団の中でじっとしていました。
翌朝、玄関前にはまた同じ回覧板が置かれています。
今度は何か手掛かりがないか、一枚ずつ確認してみました。
すると最後の方に、この団地の居住者名簿らしきページをみつけます。
部屋番号と名前がずらりと並んでいましたが、知っている住人は一人もいません。
不審に思い、この団地に長く住んでいるというおばあさんに尋ねてみることに。
名簿を見せた途端、おばあさんの表情が変わりました。
「この人たち、昔ここに住んでた人だよ」
「昔?」
「そう。もうみんな亡くなってるけどね」
背筋が冷たくなりました。
怖くなった私は回覧板をゴミ捨て場へ捨て、その日は早めに眠ることにしました。
しかし翌朝、玄関を開けると捨てたはずの回覧板が置かれているのです。
震える手で名簿を開きます。
昨日までなかった名前が、一番下に追加されていました。
私の屋番号と、私の名前です。
そして名前の横には「在宅確認済」と書かれていました。
その日の深夜2時。
“コンコン”
また玄関を叩く音がします。
しばらく待っても、今日はいつもの言葉が聞こえてきません。
代わりに、扉のすぐ向こうから小さな声がしました。
「いるんでしょ?」
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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