些細な違和感
私の通勤途中にはずっと空き家になっている古い一軒家があります。
毎日のように前を通っているので、普段はとくに気に留めることもありませんでした。
ところがある朝、何気なく二階の窓を見上げたときにふと足が止まりました。
「あのカーテン、うちと同じだ」
どこにでもあるようなカーテンなので、偶然だと思います。
ただ、よく見ると窓の向こうに見える部屋の雰囲気まで、どこか見覚えがあるような気がしました。
その日は時間がなかったので、そのまま会社へ向かいます。
帰宅後、朝のことを思い出しながら自分の部屋を眺めていると、思ったんです。
カーテンだけじゃない……。
窓際に置いた棚にその隣の小さなテーブル、壁に掛けている時計まで、空き家の二階の窓から見えたものによく似ていたんです。
気味が悪くなりましたが、暗かったし見間違いだろうと思うことにしました。
見覚えのある部屋
翌日、私はどうしても気になってしまい、いつもより早く家を出ました。
人通りの少ない時間に、改めて空き家の二階を見上げます。
やはり、私の部屋にそっくりでした。
どうして空き家に私と同じ部屋があるの……。
そう思いながら窓を見つめていると、部屋の奥で何かが動きました。
誰かがいます。
薄暗い室内からゆっくりと姿を現したその男性を見て、息が止まりそうになりました。
私と同じ顔をしていたのです。髪型も体格もまったく同じ。
窓越しに目が合うと、その男性は口元を歪め、不気味な笑みを浮かべました。
怖くなった私は、その場から逃げるように会社へ向かいます。
仕事中もあの顔が頭から離れませんでしたが、帰宅する頃には「疲れていたせいで変なものを見たんだ」と思うことにしました。
いつもの部屋に帰り、いつものベッドで眠れば忘れられる。
そう考えて、その日は早めに布団へ入りました。
いつもと違う朝
翌朝、目を覚まして洗面所へ向かおうとすると、なぜか部屋の扉が開きません。
何度力を入れてもびくともしないのです。
寝起きで混乱しながらも、ひとまず外の空気でも吸おうとカーテンを開けました。
差し込んできた朝日に目を細め、窓の外を見た瞬間、体が動かなくなりました。
そこにあったのは、いつもの自宅から見える景色ではありません。
毎朝、会社へ向かうために歩いている道。
昨日、私が立ち止まって二階を見上げていた場所でした。
震える手で窓に触れて、ようやくわかりました。
ここは私の部屋じゃない。あの空き家の二階だ……。
そのとき、道の向こうから一人の男性が歩いてきました。
私がいつも着ている服を着て、私の通勤鞄を持っています。
男性は足を止めると、こちらを見上げました。
そして、昨日と同じ笑みを浮かべます。
そのまま何事もなかったように、私が毎朝歩いていた道を会社の方へ歩いていきました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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