カーブミラー
駅に行く途中に少し見通しの悪いT字路があります。
塀と植木で左右がほとんど見えないので、角に立っているカーブミラーを確認して通るようにしていました。
ある朝、いつものようにミラーを見ていると、右から白い車が来ているのが見えました。
立ち止まって、通り過ぎるのを待ちます。
でも、来ないんです。
ミラーの中の車はまだ同じところにいます。
停まってるのかなと思って、角からそっと右側を覗きました。
車がどこにもいないんです。
もう一度ミラーを確認すると、さっきまで映っていたはずの白い車はおろか、通行人も誰一人いません。
見間違いとも思えませんでしたが、疲れていたのかもとその日はそのまま駅へ向かいました。
映っているだけ
翌朝。
同じT字路でカーブミラーを見ると、また白い車が映っていました。
昨日と同じ場所です。
今度はすぐに実際の道を確認しました。
やっぱり、車は停まっていません。
その次の日も、その次の日も。
毎朝ではありませんでしたが、何日かに一度、白い車がミラーの中にだけ現れるようになったんです。
最初こそ気味が悪かったものの、何度も見ているうちに慣れてしまいました。
どうせ実際には何も来ていない、そう思うようになっていました。
来る
その朝も、ミラーには白い車が映っていました。
もう足を止めることもなく、そのまま道路を渡ろうとしました。
その瞬間。
ミラーの中の白い車が、急にこちらへ向かって走ってきたんです。
反射的に立ち止まった直後、目の前を車がものすごい勢いで横切りました。
本当に一瞬でした。
あと一歩前へ出ていたら、確実にぶつかっていたと思います。
車はそのまま走り去っていきました。
呆然としてカーブミラーを見上げました。
そこには何も映っていませんでした。
帰り道
その日仕事を終えて、いつもの道を帰りました。
例のT字路を通り過ぎたあと、なんとなく振り返ってカーブミラーを見上げました。
白い車はいません。
でもそこには人が立っていました。
右側の道の奥。
ちょうど朝まで白い車が映っていたあたりです。
見覚えのある服でした。
その日の私の出で立ちとそっくり同じなんです。
慌てて実際の道を見ました。
誰もいません。
もう一度ミラーを見ると、今度は何も映っていませんでした。
朝のことがなければ、見間違いと思えたかもしれません。
どういうことだろうと立ちすくんでいたら、後ろから誰かの足音が近づいてきて、慌ててその場を離れました。
それ以来、あの道は通っていません。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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