エレベーター
数年前、古いマンションに住んでいたころの話です。
8階の角部屋で、駅にも近くて、結構長いこと住んでいました。
エレベーターは1基だけ。少し古くて動きも遅かったんですが、毎日普通に使っていました。
ある日、仕事で帰りが遅くなって、日付が変わる少し前にマンションへ着きました。
エントランスにも人はいません。
エレベーターに乗って8階のボタンを押すと、いつものようにゆっくり上がっていきます。
目を閉じてぼーっとしているとエレベーターが止まって、下りようとしたら変なんです。
エレベーターが止まったのは、3階でした。
誰か乗るのかなと思って待ってみましたが、誰も乗ってきません。
廊下にも人影はありませんでした。
誰かが押したあと階段を使ったのかな。
そのくらいに思って、閉ボタンを押しました。
故障?
エレベーターは再び上がり始めました。
今度は5階で止まりました。
また扉が開きます。
でも、やっぱり誰もいません。
さすがに少し気味が悪くなりました。
深夜のマンションですから、廊下も静かです。
閉ボタンを押して、早く8階に着いてくれと思いながら階数表示を見ていました。
6階。
また止まりました。
扉が開きます。
誰もいません。
さっきから一体なんなんだ。
そう思いながら閉ボタンを押したんですが、そのとき、なんとなく妙な感じがしました。
狭いエレベーターの中が、最初より窮屈に感じるんです。
もちろん、乗っているのは私一人です。
疲れてるんだろう。
そう思うことにしました。
降りていったもの
7階で、またエレベーターが止まりました。
もう勘弁してくれと思いました。
ところが今度は、扉が開きません。
少し待っても開かない。
開ボタンを押しても反応しません。
故障かと思って非常ボタンに手を伸ばした、そのときです。
“カサッ”
背後で、小さな音がしました。
服が擦れたような音でした。
そこで初めて気づいたんです。
3階でも、5階でも、6階でも。
扉が開くたび、私はずっと廊下のほうを見ていました。
誰かが乗ってこないか確認して、閉ボタンを押して。
一度も、後ろを見ていません。
振り返れませんでした。
しばらくして扉が開いて、まただれも乗ってこないまま閉まり、エレベーターは何事もなかったように動き始めました。
8階に着いた瞬間、開いた隙間から逃げるように降ります。
そのまま部屋まで走って、鍵を閉めました。
あのときエレベーターに乗っていたのは、本当に私一人だったんでしょうか?
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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