友だちの家
小学生のころ、同じクラスの友だちの家によく遊びに行っていました。
学校が終わったら一緒に帰って、ゲームをしたり漫画を読んだり。
白い壁の古い一軒家で、庭がけっこう広かったのを覚えています。
ほぼ毎日遊びに行っていたと思うんですが、ご家族には会ったことがありませんでした。
「今日も誰もいないの?」
「うん、仕事」
そんな会話をした記憶があります。
うちも両親が共働きだったので、とくに不思議には思いませんでした。
中学に進学すると部活の仲間とつるむことが多くなって、彼とは遊ぶことも少なくなりました。
成人式
成人式に出るために帰省して、久しぶりに近所をぶらぶらしていたとき。
懐かしい道だなと思いながら歩いていると、一軒の家が目に入りました。
あの友だちの家でした。
庭は雑草だらけで、窓にはカーテンがかかっていません。
どう見ても、しばらく人が住んでいないようでした。
引っ越したのかな?明日、久しぶりに会えるかもしれない。
当日は女子と違って支度も早く済みますから、ちょっと早めに公民館に着いたんです。
そしたら、その彼をちょうど見つけました。
久しぶりなんて声をかけて、近況報告をしあって。
「そういや、おまえ引っ越したん?昨日、久しぶりに家の前通ったんだけど」
「え?実家?引っ越してないよ」
「え?あそこ住んでんの?」
外からではありますが、けっこう不躾にじろじろ見てしまった気がします。
悪かったなと思いながら話していたんですが、なんだか妙です。話が噛み合わないんです。
「小学生のとき、よく遊びに行ったじゃん」
「俺ん家に?いや、遊ぶ時いつもそっちの家だったじゃん。俺ん家団地で妹もまだ小さくてずっと家にいたしさ」
「え?」
でも、言われて思い出しました。
たしかに「赤ちゃん寝てるから外で遊びなさいって」と怒られた覚えがあります。
なのに、あの一軒家で遊んでいた記憶もはっきり残っているんです。
居間のテレビでゲームをしたこと。台所から友だちがジュースを持ってきたこと。夏休みに床へ寝転がって漫画を読んだこと。
彼にもそう話しました。
「俺も一緒だったの?」
「一緒だったよ。毎回いたよ」
「……全然覚えてない」
その日は、お互い気味が悪くなってその話をやめました。
思い出したこと
それからしばらく、あの家のことが頭から離れませんでした。
昔の記憶を何度も辿っているうちに、妙なことを思い出します。
あの家で遊ぶ日は、学校から帰る途中で友だちが決まって、「先行ってて」と言っていたんです。
何か用事があるのかと思って、僕はいつも一人で先に家へ向かっていました。
玄関には鍵がかかっていません。
勝手に入って居間で待っていると、少しして友だちがやってきます。
帰るときも、いつも僕が先でした。
当時は何とも思っていませんでした。
でも、今になって考えるとおかしいんです。
僕は一度も、友だちがあの家の玄関を開けるところを見たことがありません。彼の家のはずなのに。
あの家、誰の家なんでしょう。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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