祖母の家
子どものころ、夏休みになると毎年祖母の家に泊まりに行っていたんです。
古い日本家屋で、襖を開けると和室がいくつもつながっていました。
普段は祖母一人で暮らしているので使っていない部屋も多く、私たち孫が集まると、家中が遊び場になります。
とくに好きだったのが、和室をぐるぐる走り回る遊びでした。
襖を全部開けてもらうと、居間から仏間、その隣の和室、そのまた奥の部屋まで一直線につながります。
従兄弟と追いかけっこをして、祖母に、「家の中で走らないの!」と怒られるのがお決まりでした。
一番奥には、小さな和室がありました。
ほかの部屋より暗くて、窓もなかったと思います。
そこだけ家具も何もなくて、子どもながらに少し怖かったので、追いかけっこのとき以外はあまり入りませんでした。
昔話
祖母が亡くなり、家を片付けることになったのは、それから二十年近く経ってからです。
久しぶりに従兄弟たちも集まりました。
荷物を整理しながら昔話をしているうちに、子どものころの追いかけっこの話になりました。
「よくばあちゃんに怒られたよね」
なんて笑いながら、なんとなく昔と同じように襖を開けてみたんです。
居間。
仏間。
その隣の和室。
そこで終わりでした。
「あれ?」
思わず声が出ました。
一番奥の小さな部屋がありません。
襖があったはずの場所には、壁があります。
「この奥にもう一部屋なかったっけ?」
そばにいた叔父に聞いてみますが、不思議そうな顔をしています。
「ないよ、そんなの」
「でも小さい部屋あったよね。窓のない」
すると、そばで聞いていた従兄弟が、「あった」と言いました。
私と同じ部屋を覚えていました。
追いかけっこのときに入ったこと。何も置いていなかったこと。薄暗くて、なんとなく怖かったこと。
でも叔父も母も、そんな部屋は知らないと言います。
家の外から確認してみても、その場所に部屋があったような張り出しはありませんでした。
アルバム
その日の夕方、押し入れから古いアルバムが出てきたんです。
片付けの手を止めて、みんなで眺めました。
庭で花火をしている写真。
従兄弟たちと並んだ写真。
その中に一枚、家の中で撮ったものがありました。
私と従兄弟が並んで立っています。
たぶん小学校低学年くらいです。
写真を見た瞬間、二人とも黙りました。
私たちの後ろに、襖があったんです。
見覚えのある襖でした。
あの小さな和室の入口です。
「これだよ、この部屋」
従兄弟が言いました。
母たちにも見せました。
でも、「こんな襖あったっけ」と首を傾げるだけでした。
写真には、私と従兄弟以外もう一人写っていました。
開いた襖の奥。
暗い部屋の中に、知らない子どもの顔だけが見えています。
あれが誰なのか、今もわかりません。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
【SNS】
X:@a_mirin0223
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。

