最悪の上司
最近、職場の人間関係が最悪です……。
会社自体に不満はないのですが、少し前に他社から引き抜かれてきた上司がとにかく厄介な人でした。
自分の気分でいうことがコロコロ変わり、無茶な要求をしたかと思えば失敗すれば部下のせい。
人によって態度も露骨に変わります。
上司ひとりのせいでいまや部署全体が常にピリピリ、ギスギス。
以前は落ち着いた雰囲気だったのに怒声や舌打ちも珍しくない、異様な空間になってしまいました。
だけど、会社の敷地内にはふたつのビルがあります。
普段使っている建物とは別に、ほとんど倉庫になっている古いビルがありました。
工事しないと危ないんじゃないか、と思ってしまうほどなので、用事がなければ誰も立ち寄りません。
いつからか私はその屋上で一人昼食を取るようになったのです。
姿が見えない音
ある日、いつものように弁当を食べていたんです。
“コン、コン”
すると、近くにある古い給水塔から音がしました。
どこかにガタが来ていることで発された音だろうと思いましたが、翌日も同じ音が続いたんです。
なんとなく気になった私は、給水塔を2回叩いてみました。
すると少し間を置いて、
“コン、コン”
中から2回、私のノックに応じるように音が返ってきました。
もう、気のせいとは思えませんでした。
ですが翌日もピリピリとした職場の空気に耐えられず、結局屋上へ。
試しに今度は3回叩くと、
“コン、コン、コン”
やはり同じ回数だけ返ってきました。
それから毎日のように試しましたが、1回なら1回、5回なら5回。必ず私が叩いた分だけ返してきます。
最初こそ不気味でしたが、不思議と慣れるものです。
下手なことをいえば機嫌を損ねる人間より、こっちの方がよっぽど気楽だなとすら思えました。
なんなら、愛着のようなものまで覚え始めています。
いつしか昼食後には「また明日」と言いながら、4回叩いてから帰るのが習慣になっていました。
歓迎するかのように
ところがある日、上司にクレーム対応の仕事を押しつけられました。
手土産を購入してアポを取ってお詫びしに行って……としているうちに昼休憩の時間は過ぎ去り、当然私はそのまま休憩なし。
その日は屋上に向かうことは叶いませんでした。
翌日、弁当を持って屋上へ出ます。
すると、給水塔へ近づく前に、
“コンコンコンコンコン”
いつもよりも早いペースでノックが鳴り響きました。
それはまるで、昨日来なかった私を心配するような音色に聞こえます。
もちろん、本当にそうかなんてわかりようがありません。
だけど、なんとなく愛おしさを感じていつものようにノックで交流しながら、休憩を終えて戻る前にいつものように声をかけます。
「じゃあ、また明日」
“コン、コン、コン、コン”
私がノックするまでもなく、給水塔からは4回のノックが鳴り響きました。
今思えば、あれは紛れもない恐怖体験でした。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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