不在票
社会人一年目で、とにかく会社の近くの部屋ならどこでもいいと思って決めた部屋でした。
住んでいたのは、築年数がかなり経った二階建てのアパート。
家賃が安く、部屋もそれなりに広かったので、古さはあまり気にしていませんでした。
ある日、仕事から帰ると、郵便受けに宅配便の不在票が入っていたんです。
「何か頼んでたっけ?」と思いながら見ると、宛名は知らない女性の名前。
部屋番号は間違いなく私の部屋でした。
前に住んでいた人だろうと思って、そのときは特に気にしませんでした。
ところが数週間後、また同じ名前の不在票が入っていました。
今度は備考欄に手書きで、
「在宅のようでしたが応答なし」
と書かれていました。
何だかおかしいと思ったんです。
その日は朝から仕事で、もちろん部屋には誰もいません。
テレビや電気をつけっぱなしにしていたわけでもありません。
配達員さんが隣の部屋と勘違いしたのかもしれない。
そう思って、その不在票も捨てました。
人影
それからしばらくして、また不在票が入っていました。
宛名は、また同じ女性です。
さすがに三度目だったので、今度は捨てずに確認しました。
備考欄には、
「玄関先まで出てこられましたが、お渡しできませんでした」
と書いてありました。
その時間も私は仕事中です。
気味が悪くなって、配送会社に電話をかけました。
事情を説明すると、その日の担当者につないでもらえました。
「ああ、はい。どなたかドアのところまで出てきてくださったんですが、お渡しできなくて」
部屋の玄関ドアには、上のほうに小さな曇りガラスがついています。
チャイムを鳴らすと、そのガラス越しに人影が見えたそうです。
女性らしい人が玄関まで来て、ドアのすぐ向こうに立っている。
でも、何度声をかけても返事をしない。
荷物を見せても動かない。
しばらく待ったものの、様子がおかしかったので、不在票を入れて帰ったということでした。
「すみません。うち、私しか住んでないですし、その時間は誰もいないはずなんです」
そう言うと、配達員さんは黙ってしまいました。
前の住人
翌日、管理会社に連絡しました。
前の住人の名前を教えてもらえるとは思っていませんでしたが、不在票に書かれていた女性の名前を伝えます。
すると、
「ああ、その方なら以前そこに住んでいた方ですね」
とあっさり言われました。
「その方、今は……」
恐る恐る聞くと、
「普通に退去されてますよ」
と言われました。
数年前に引っ越して、退去時にも特に変わったことはなかったそうです。
結局、何もわからないまま、それからしばらく不在票が入ることはありませんでした。
忠告
忘れかけていた頃、仕事から帰ると、また一枚の不在票が入っていました。
宛名は、また同じ女性です。
備考欄には、今度はこう書かれていました。
「ご本人より、こちらにはもう住んでいないとのこと」
意味がわかりませんでした。
前の住人がたまたま近くに来ていて、配達員さんと会ったとか?
そう思って配送会社に確認しました。
前と同じ配達員さんでした。
「ああ、はい。不在票入れさせていただきました」
なんだか、妙に言い淀んだあと、
「インターホン押したら、中から女の人がそう言ったんですよ」
黙る私に、配達員さんは、
「あの、その部屋、もう引っ越した方がいいと思います」
そう言って電話を切りました。
それからすぐ、別の部屋を探して、引っ越すことにしました。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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