非常階段
以前住んでいたマンションでの話です。
5階建ての、ごく普通のマンションでした。
最上階に住んでいた私は、普段はエレベーターを使っていました。
ある朝、仕事に行こうとすると、エレベーターが点検中で使えなかったんです。
仕方なく、建物の端にある非常階段から下りることにしました。
5階から4階。
4階から3階。
外が見える階段だったので、景色が新鮮で、少し楽しくもありました。
そのまま下りていくと、「2F」と書かれた踊り場を通り過ぎました。
あと1階分だと思って、さらに階段を下ります。
でも、次の踊り場にも、「2F」と書いてあるんです。
もう1つの2階
最初は、自分が見間違えたんだと思いました。
もう一度、階段を上り下りして確認しました。
やはり、「2F」の表示が連続しています。
変だなと思いながら、その階の廊下を覗いてみました。
201、202、203。
普通に部屋が並んでいました。
ただ、なんとなく違和感があるんです。
人の声もテレビの音も聞こえません。
少し気味が悪くなって、すぐ階段に戻りました。
そこからもう1階下りると、今度は普通に1階に着きました。
部屋番号
帰宅してから、念のため2階までエレベーターで上がってみました。
そこには当然、201、202、203と、朝見たのと同じ部屋番号が並んでいました。
でも今度は玄関先に傘があったり、子どもの自転車が置かれていたりします。
朝見た場所とは明らかに雰囲気が違いました。
階段も確認しました。
5、4、3、2、1。
1階多いなんてことはありませんでした。
翌日、管理人さんに、
「非常階段って、途中に同じ階が2つあったりします?」
と聞いてみました。
変な質問だと思われるだろうなと思っていたんですが、管理人さんは声を潜めて言いました。
「どこかの階で、廊下に出ました?」
止まらないで
「……2階で」
「部屋には入ってないですよね?」
「もちろん入っていません」
そう答えると、管理人さんは安心したように、「じゃあ大丈夫です」と言いました。
意味がわからなくて聞き返したんですが、
「次から、外階段を使うときは途中で止まらないでください」
それしか、教えてくれませんでした。
そのマンションには、その後もしばらく住んでいました。
でも非常階段だけは、できるだけ使わないことにしました。
今でもときどき考えます。
あのとき並んでいた201号室や202号室のドアを開けていたら、どこにつながっていたんでしょうね。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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