朝のエレベーター
うちってタワーマンションというほどではないのですが、そこそこ階数があって、朝はエレベーターが混むんですよ。
私の住んでいる513号室は、エレベーターから1番手前の部屋なんです。
部屋を出てすぐなもんですから、誰かが呼んでたエレベーターにいつも駆け込みがちで。
もちろん、間に合わないこともあります。
「待って!」と言っているのに、扉を閉められたりすることもあります。
まあでも、捨てる神あれば拾う神ありっていうんですかね。
ちゃんと待っててくれる人もいて。
慌てて駆け込む私を見て、笑って「おはようございます」って言ってくれる、感じのいい人もいるんですよ。
誰もいない
その日の朝も、玄関を出るとちょうどエレベーターが来たところでした。
扉が閉まり始めていたので小走りで声をかけると、扉が開いたんです。
「ありがとうございます」
そう言いながら乗ると、誰もいませんでした。
「あれ?」と思って廊下を振り返りました。
私の階で誰かが降りたなら、どこかですれ違うはずです。
でも誰もいません。
操作盤を見ると、「開」のボタンが点灯しています。
数秒すると消えて、扉が閉まりました。
待っている
翌朝。
エレベーターの前まで行くと、ちょうど扉が閉まり始めました。
また開きました。
中には誰もいないはずなんです。
たまに同じことが起こるようになったので、管理会社に聞いてみましたが、センサーの異常などは確認できなかったそうです。
変だとは思いましたが、実害もありません。
むしろ朝は助かるので、だんだん気にしなくなっていました。
返答
その日は、寝坊してしまったんです。
エレベーターへ走っていくと、ちょうど扉が閉まりかけています。
手前で声をかけると、いつものように途中で扉が止まって、ゆっくり開きます。
中には誰もいません。
「いつもありがとうございます」
と、冗談半分で言いながら乗りました。
すると、「ピッ」と、返事をするように音が鳴って、「閉」のボタンが点灯しました。
私はまだ、どのボタンにも触っていません。
扉が閉まりました。
その日はなぜか、1階に着くまで操作盤の前から動けませんでした。
それからも、ときどきエレベーターは私を待っていてくれます。
でも、もうお礼は言っていません。
返事をされたような気がしたのは、あの一度だけです。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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