窓から見える駐輪場
住んでいるマンションの向かいに、小さな駐輪場があります。
私の部屋は5階で、窓からは駐輪場の屋根や、その周りの道路がよく見えるんです。
仕事から帰ってきて、窓を開けて外の空気を吸うのが習慣になっていました。
特に意識していたわけではないのですが、なんとなくその駐輪場を眺めるようになったんです。
ある夜、少し変なことがあったんです。
駐輪場に女性がいるのを見かけました。
夜の11時を過ぎた頃だったと思います。
女性は自転車の間をゆっくり歩きながら、一台ずつ確かめているようでした。
こんな遅い時間に自分の自転車が見つからないのかな。
そうは思いつつ、特に気にしませんでした。
探索
ところが、翌日の夜も同じ女性がいました。
その翌日もです。
いつも夜11時頃になると現れて、駐輪場の端から端まで歩いています。
自転車のカゴをのぞき込んだり、ハンドルのあたりを確認したりしては、また次の自転車へ。
何かを探しているように見えました。
最初は自転車泥棒かとも思いましたが、鍵に触れたり、自転車を動かしたりする様子はありません。
ただ、ひたすら一台ずつ見て回るだけです。
そんな光景が一週間ほど続いた頃、私は少し気味が悪くなっていました。
ある夜、いつものように窓から眺めていると、女性が突然立ち止まりました。
そして、ゆっくりと顔を上げたのです。
こちらを見ていました。
見上げる
思わず窓から離れました。
外から部屋の中が見えるとは思いませんが、自分の存在に気づかれたような気がしたんです。
しばらくして、もう一度そっと外をのぞきました。
女性はまだそこにいます。
自転車を見て回るのはやめて、ただこちらを見上げていました。
翌日の夜も同じでした。
夜11時になると、女性は駐輪場に現れます。
でも、もう自転車を見て回ることはありません。
現れたときから私の部屋のほうを向いて、じっと立っているのです。
カーテンを閉めてしまえば見えないのに、どうしても気になってしまいます。
ある日、思い切って部屋の電気を消し、カーテンの隙間から外を見ました。
女性はいつもの場所に立っています。
そして、私が窓に近づいた瞬間、すっと顔を上げたんです。
暗い部屋の中にいる私が、見えているみたいでした。
見つけた?
それから数日間、夜はカーテンを開けないようにしました。
外を見なければ、何も起こりません。
ところが、ある晩。
仕事から帰ると、マンションのエントランスに見覚えのある女性が立っていたのです。
薄い水色の上着に、黒っぽいズボン。
あの女性でした。
思わず足が止まりました。
今思えば、あれは紛れもない恐怖体験でした。
女性はこちらに背を向けて、エントランスの集合郵便受けを見ていました。
郵便受けを一つずつ確認しているようです。
私はそのまま引き返し、近くのコンビニでしばらく時間をつぶしました。
深夜になって戻ると、女性の姿はありませんでした。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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