ホテルのタオルが……
出張で地方を訪れたとき、駅前のビジネスホテルに宿泊しました。
チェックインを済ませ、さっそくシャワーを浴びようとユニットバスに入りました。
トイレと浴槽が一緒になったごく普通の造りで、洗面台の横にはバスタオルとフェイスタオルがきちんと畳んで置かれています。
ところが、バスタオルを手に取った瞬間、違和感を覚えました。
湿っていたのです。
びしょ濡れというほどではありませんが、明らかに一度使ったあとのような、じっとりとした感触でした。
フェイスタオルも同じ状態です。
「えっ?これ、交換してなくない?」
気持ち悪くなり、フロントに連絡して事情を説明すると、スタッフはすぐに新しいタオルを届けてくれました。
丁寧に謝罪してくれたうえ、チェックイン時のスタッフの印象も良かったので、単なる清掃ミスだったのだろうと、それ以上は気にしませんでした。
起こりえないはずの異変
しかし、スタッフが帰ったあとに新しいタオルを広げてみると、また湿っていたのです。
先ほどとまったく同じ、嫌な感触でした。
「これは、さすがに何かおかしい」と思い、もう一度フロントへ電話。
今度はスタッフに事情を詳しく説明し、目の前で新しいタオルを確認させてもらうことにしました。
やって来たスタッフが持っていたのは、未開封の袋に入ったタオルです。
私の前で袋を開け、取り出して見せてくれました。
触ってみると、今度は確かに乾いていました。
「ありがとうございます。何度もすみません」
そう伝えると、何度も交換をお願いする私に対しても、スタッフは丁寧に対応してから部屋を出ていきました。
これでようやくシャワーを浴びられる。
そう思ってタオルをユニットバスに運び、着替えを用意してから、もう一度手に取りました。
「……うそでしょ」
湿っていました。
つい数分前、間違いなく乾いていたはずなのに。
しかも、さっきより冷たく感じます。
私は思わずタオルを放り出しました。
室内の湿度が高いせい?
いや、換気扇は正常に動いているし、ユニットバスの壁や床にも水滴はありません。
そもそも、こんな短時間でタオルだけが湿るなんて、どう考えても不自然です。
もう一度フロントへ電話しようか迷いましたが、何度交換しても同じことが起きる気がしました。
それに、あの狭い浴室に入ること自体、なんだか怖くなってしまったのです。
結局、その日はシャワーを諦め、ユニットバスの扉を閉めて眠りました。
翌朝、目にした光景
翌朝、顔だけでも洗おうと思い、恐る恐る扉を開けました。
すると、洗面台に置いたタオルが2枚とも、びしょ濡れになっていたのです。
持ち上げると水がぽたぽたと滴り、床に小さな水たまりができました。
浴槽も蛇口も、使っていないままです。
私はタオルを元の場所に戻し、荷物をまとめて早々にチェックアウトしました。
お風呂に入れず、顔もろくに洗えていませんでしたが、とにかく一刻も早くその場所から立ち去りたかったのです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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