部屋の角にいる男性
私の実家は、中古の戸建て物件でした。
住み始めたのは私が小学生の頃。
3つ上の姉と同じ部屋ではありましたが、自分たちの部屋が当てがわれた私たちは、毎日お祭り騒ぎのようにはしゃいでいました。
しかし、私はすぐにその部屋を気味悪く思うようになります。
なぜなら部屋の角に、たまに男性の姿を見るようになったからです。
こちらを見ている
その姿は、姉には見えていないようでした。
男性はただそこに立っているだけで、なにをしてくるわけでもないのです。
無表情でその場にいられる不気味さは、いつまでたっても慣れることはありませんでした。
月日は流れ、高校生になったときのこと。
大学生になった姉はすでに家を出て、その部屋は私の一人部屋となっていました。
その直前まで男性の姿は見えていませんでしたが、ふと物を取ろうとそちらを振り返ると、いつもの位置に立っている男性。
そして、いつもどこを見ているかわからない男性の視線は、私に向けられていたのです。
初めてのことに驚き、そのまま固まってしまう私。
そんな私を見て、男性はなにやら口を“パクパク”とさせて、なにかを私に話しかけているようなのです。
それがなにを伝えているのか、そのときは解読することができませんでした。
「なんて言ってるの?」
それからも度々、男性と目が合うように。
その度に男性はなにかを口走っているようでしたが、相変わらずその言葉がわかりませんでした。
このようなことは、姉がこの家を出ていってからのこと。
その日もまた、男性は私の目を見て、なにかを“パクパク”と訴えていました。
しかし口の動きも小さく、どうしても解読できないのです。
「ねえ、なんて言ってるの?」
これまでは男性と目が合っていながらも、その存在を無視していた私。
どうしても気になり、思い切って聞いてみました。すると……
「こ、ろ、す……。こ、ろ、す……。こ、ろ、す……」
のちに聞いたのですが、姉にも男性の姿が見えていたのだそう。
高校卒業と共に、私も逃げるように実家を出ました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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