樹海での撮影
カメラ撮影が趣味の私は、当時付き合っていた彼女と一緒にとある樹海を訪れました。
一緒にといっても、撮影をするのは私だけ。彼女には私の撮影の被写体として、モデルをお願いしていました。
樹海の中を深く進んでいくと、幻想的な雰囲気の写真がいくつも撮れ、私は夢中でシャッターを切ります。
彼女はだんだん飽きてきたのでしょう。「ちょっと休憩しようよ」と、適当な場所へ腰をかけました。
そんな姿も様になっていたため、私は木の根元に腰掛ける彼女を一枚撮ろうとレンズを向けました。そのとき……
「……えっ」
ファインダー越しに見る彼女の後ろに、人影が写った気がしたのです。
ファインダー越しの……
驚いてカメラから顔を離し、肉眼でそちらを確認しました。
「どうしたの?」
しかしそこには、不思議そうな表情でこちらを見る彼女だけ。
私の気のせいだったのでしょうか。
改めて木の根元に座る彼女を撮影しようと、再びファインダーを覗くと……
「ぎゃっ、ぎゃああああっ!!?」
今度はレンズいっぱいに、人の顔のようなものが写っていたのです。
私の大声に彼女は驚いていましたが、下手に怖がらせたくなかった私は説明もそこそこに彼女の手を引き、その場を立ち去ります。
そうして車に到着すると、一目散に樹海を後にしたのです。
道中、彼女がしきりに「息が苦しい」と訴えて首元を押さえていたことが気がかりでしたが、恐怖のあまり、大して気にかけてあげることができませんでした。
彼女が座った木は
「なんだよ、これ……」
帰宅後、2人で撮影データを確認すると、いくつかの写真に不思議な影が写っていました。
それらは全て、写真の上半分あたりに写っているのですが……
「これって……」
それは、垂れ下がる人の両足のように見えるのです。
そう、まるで人が木に吊るされているかのような。
さらに、私が写真を見て絶句していると、彼女が「あのね」と口を開きました。
実は木の根元に腰掛けた、あのとき。後ろに手をついた際に、指になにかが触れたのだと。
それをチラリと確認すると、緑色に変色したロープだったとのこと。恐らく長い時間が経ち、苔かなにかが生えた色なのでしょう。
木の周りに落ちていたロープ。突然息苦しさを訴えた彼女。
そして写真に写る、ぶら下がった両足。
これらが意味するものは、やはり……。
それ以降、趣味の写真撮影からは足が遠のいてしまいました。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆松木あや
ホラーやオカルトが好き。在住する東北の地で、ひんやりとした怖い話を収集しています。
恐怖体験の「おすそわけ」を楽しんでもらえると嬉しいです。
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