高校時代の友人
ある日、私は喫茶店で旧友を待っていました。
「聞いてほしい話があるの。できるだけ早く会いたいんだけど、暇な日を教えて」
久しぶりに届いたメールの送り主は、高校時代の友人S子。
なにか困っていることがあるのでしょう。
私はメールを受け取ってすぐに、彼女と会うための時間を設けたのです。
約束の時刻は午後6時。
しかし、すでに時計は6時20分を指しています。
私は窓の外が暗くなっていくのを眺めながら、ぬるいコーヒーを口に運びました。
「いらっしゃいませ」
店員の声で顔をあげると、目の前にはひどくやせた、憔悴した様子のS子が現れた。
「ひ、ひさしぶり……」
「ひさしぶり。遅くなっちゃってごめんね。ちょっと最近、変な人に付きまとわれてて……」
そう前置きをしてS子が話しだしたのは、実に奇妙で恐ろしい体験談でした。
S子の体験談
私はいま、女性専用マンションに住んでいます。
家賃が高い分、セキュリティや気遣いが行き届いているのが魅力的。
たとえばエレベーターホールにも、外から中の様子がわかるモニターが設置されています。
男性恐怖症の私にとって、とてもありがたかったのです。
……しかし先日、このモニターにおかしなものが映っていました。
月初めの夜のこと。
仕事から帰宅した私は、マンションのエントランスを抜け、くたくたの体でエレベーターの前に立ちました。
頭上のモニターに映し出されていたのは、だれもいない空のエレベーター。
私は安心して上昇のボタンに触れ、エレベーターが下りてくるまで時間を潰そうと、スマートフォンを取り出しました。
ジ、ジジ……。
しかし、電子機器が発する耳障りな音が聞こえ、反射的に上を向きます。
「え?」
モニターの中には、いつの間に乗り込んでいたのか、カメラに背を向けて立つ中肉中背の女。
それだけならおかしなことはありませんが、とにかく妙なのです。
女は下降するエレベーターのなかで、不可思議なポーズを取っていました。
手首をだらんと下に向け、直角に折り曲げた両腕。
頭を右に傾け、両膝をくっつけて姿勢を低くしながら立つその姿は、まるで操る人のいないマリオネットのよう。
変な人が降りてくる……。
女と鉢合わせたくなかった私は、物陰に隠れます。
ピンポーン。
到着を知らせるエレベーターの音が鳴り響き、ドアがスーッと開きました。
笑み
しかし、誰かが降りてくる様子はありません。
ドアが閉まる気配を感じ、私はおそるおそるエレベーターに近づきます。
「ヒッ!!」
モニターを見上げたその瞬間、私は息が止まるほど恐ろしい光景を目の当たりにしました。
あの女が、こちらを向いて満面の笑みを浮かべているのです。
その目はカメラではなく、モニター越しの“私”を見つめている……、そう感じました。
『つぎは、あなたのばん』
音を拾わないはずの映像なのに、確かに女の声が聴こえてきました。
……それからというものの、ふとしたときにあの“女”が私の目の前に現れるようになりました。
今では、一日に何度も奇妙なポーズを取る彼女の姿を見るようになって……。
現れた女
ここまで話したあと、S子は突然顔をこわばらせ、窓の方を見ました。
「その女!その女がついてくるのよッ!」
「え……?」
私は窓の奥の暗がりに目を移しますが、人の姿どころか、すぐ先の景色すら見えません。
「なんで!?なんで私にしか見えないの!?きっと呪われているんだわ……」
S子はそう叫んだあと、逃げるように喫茶店を飛び出しました。
取り残された私は唖然とするばかり。
一体、S子には何が見えていたのでしょうか。
彼女は自身の体験談を口にしながら、話の中に出てくる女と同じポーズを取っていました。
私はその女の不気味さを伝えるために、S子があえてそうしているだと思っていたのですが。
……彼女は窓に映った自分を見て突然怯えだしたのです。
S子には、自分自身の姿が“ナニ”に見えていたのでしょうか?
「一日に何度も奇妙なポーズの女を見る」
……そう言った彼女からの連絡は、この出来事以降ありません。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆底渦
中学生で都市伝説にドハマりし、2chホラーと共に青春を駆け抜けたネット廃人系オカルトライター。
怖い話の収集・考察が趣味です。
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