和室のある古いアパート
大学に入学したばかりのころ、友達が格安の古いアパートで一人暮らしを始めた。
俺たちの中で一人暮らしはそいつだけで、「溜まり場はここだな!」「入居祝いしようぜ!」と盛り上がり、早速集まることになった。
2Kの古びた部屋で、片方は畳の和室。
飲んでゲームをして雑魚寝するだけの俺たちには十分。初日は夜更けまで騒ぎ、布団も敷かずに雑魚寝した。
翌週、授業で一緒になった友人のひとりがスマホを差し出してきた。
「なあ、変な写真が撮れてたんだ」
そこに写っていたのは、和室でふざけて撮った集合写真。
だが梁のあたり、俺たちの真上になにかがブレて映っていた。
「こんなとこに吊るすもんあったか?」
首をひねったが、思い当たるものはない。
そしてその夜も家主に呼ばれ、再びアパートに集まった。
梁から降りてくるもの
俺たちは写真を見せず、和室の梁を確認した。何もない。
ただ天井を見上げている俺たちを不審そうに見て、家主が言った。
「そこ、なんか視える……?」
彼は苦笑しながらも声を落とし、打ち明けてきた。
「頭がおかしいと思われてもいいんだけどさ、この部屋で寝てると、上から何かがぶらぶら降りてくるんだよ」
目の下には濃いクマが刻まれ、まともに眠れていないのが一目でわかる。
写真の梁と同じ場所を指差していた。
俺たちは気味悪くなったが、放っておくのも忍びなく、朝まで飲もうということになった。
深夜三時。みんな潰れたように眠り込み、俺だけがスマホをいじって起きていた。
すると、和室の方からかすかな音がする。
“ギシ……ギシ……”
誰かのいびきに混じり、梁が軋むような音が響いていた。
朝に残った痕
気になって和室を覗いたが、何もない。
用を足して戻る途中、ふと顔を上げて──見てしまった。
梁からロープが垂れ下がり、その先に男性が浮いていた。
首を吊ったばかりのように、体はゆらゆらと揺れている。声も出せず、ただ凝視するしかなかった。
“ギシ、ギシ……”
揺れながら回転し、顔がこちらに向く──その瞬間、気づけば俺は友人の間で朝を迎えていた。
テレビではニュースが流れ、変わらず雑魚寝したままいびきをかいている。
夢だったのかと自分に言い聞かせ、和室を覗いた。
梁には、確かに痕が残っていた。何かを強く括りつけ、木が深く削れた跡。
まるで太いロープを何重にも巻き付けたような、生々しい凹みだった。
それ以来、家主には「和室を寝室にするな」と助言し、俺だけは終電前には必ず引き上げるようにしている。
二度とあの梁の下で夜を明かす気にはなれない。
梁を軋ませて浮かぶ、あの男性の顔を見てしまったら、なにかが変わってしまう気がしているから。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆斎 透(さい とおる)
noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
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