夜の病院
4歳の娘が、初めて熱性けいれんを起こした夜のことです。
よりによって夫は出張中。
ワンオペの夜に熱が出て、けいれんまで起こして。すぐに落ち着いたとはいえ、とにかく怖くて、そのまま夜間救急へ駆け込みました。
受付で待っている間も、娘は私にもたれたままぼんやりしています。
熱のせいでぐったりしているだけなのか、それとももっと悪いことが起きているのか、まったくわかりませんでした。
そんな時、娘がうわごとのように小さくつぶやいたんです。
「……あのおねえちゃん、ひとりでやだって」
思わず娘の視線の先を見ますが、誰もいません。
入院病棟からも離れていますし、小さな子どもが一人でいるような場所ではないはず。
熱で幻覚を見ているのかと、ひやひやしたのを覚えています。
誰もいない廊下
診察のあと、娘は処置室で点滴を受けることになりました。
私は処置室の前の長い廊下で待つことに。
真夜中の病院って、昼間よりずっと広く、冷たく見えるものですね。1人きりでちょっと怖かったのを覚えています。
娘は泣きもせず、処置中もおとなしかったそうです。
点滴が終わる頃には熱も少し下がっていました。
先生に「今日はもうおうちに帰って大丈夫でしょう」と言われたのは、24時を回った頃です。
ようやく帰れると思って、私は心底ほっとしました。
娘も心なしか顔色がよくなっていて、少し元気そうに見えます。
会計を済ませて、駐車場へ向かおうと娘の手を引きました。
その途中、娘がまた立ち止まったんです。
さっきまで見ていた廊下の方を振り返って、じっと何かを見つめていました。
帰り際の一言
車に乗り込み、チャイルドシートに娘を座らせて、やっと終わったと気が抜けた時でした。
娘が窓の外を見て、また小さく手を振ったんです。
「あのね、もうママきたから、大丈夫なんだって」
私は凍りつきました。
娘が見ていたのは、さっき通ってきた誰もいない廊下の方でした。
その直後です。
“コツ、コツ”
車のドアを外から叩かれたような音がしました。
子どもの手の高さから聞こえた気がします。
外に出て確認する勇気はありません。
そのままアクセルを踏んで、一目散に病院を後にしました。
翌日、もう一度受診した病院は明るく賑わっていて、昨夜とはまるで別の場所です。
外来の受付で昨夜のことを聞いてみると、娘は何も覚えていないようでした。
※この物語はフィクションです。
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