【ゾッとする怖い話】意味がわかると怖い……。部屋に立つのは『僕』だった

Lifestyle

老舗旅館での一泊。
明治創業のその宿は、木の香りが残る美しい館内も温泉も評判通りで、満ち足りた夜を過ごせるはずだった。
深夜、トイレへ向かった帰り道、静まり返った階段から聞こえたのは、確かに「誰かの足音」。
何度も何度も階段を上ってきては襖の前で止まる“それ”が、やがて想像もしなかったものを見せることになる。

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古い旅館

旅館の階段出典:stock.adobe.com

出張の帰り、以前から気になっていた老舗旅館に一泊することにした。

明治時代に創業し、かの偉人も宿泊したという由緒ある宿。木の香りが漂う館内は手入れが行き届き、古さを感じさせない。
温泉は評判通りの泉質で、湯上がりの体は心地よく火照っていた。満足した僕は部屋に戻り、布団に身を沈めた。

深夜、ふと目が覚めた。少しトイレに行きたくなったのだ。
部屋の外に出ると、廊下はしんと静まり返っている。

最低限の明かりは灯っているものの、築百年を超える木造の建物は、夜になるとさすがに不気味さが増す。

階段を降りて共有のトイレへ向かい、用を済ませる。再び階段を上がり、部屋に戻ろうとしたそのとき……。

階段の足音

“ギシ、ギシ”

木が軋む音が響いた。誰かが階段を上ってきているのかと思ったが、周囲に人の気配はない。
胸の奥がざわつく。気のせいだと自分に言い聞かせ、早足で部屋へ戻った。

襖を開けると、部屋は静まり返っている。布団に潜りこみ、眠りに落ちかけたそのとき。

“ギシ、ギシ……”

さっきと同じ音が、階段を上がってくる。
それは部屋の前で止まり、襖の向こうに「何か」が立っている気配を残して、やがて消えた。

安堵も束の間、再び音が始まる。何度も階段を上がってきては、襖の前で止まる。

“カサ……”

やがて手が襖に触れるような音がした。誰かがそこにいる。

部屋にいる『僕』

襖のある和室出典:stock.adobe.com

このままでは眠れない。

意を決して布団から飛び出し、勢いよく襖を開けた。
廊下には誰もいない。階段の下も静まり返り、風の一つも吹いていなかった。

ほっと息をつき、部屋へ戻ろうとしたとき……

“スッ”

音を立てて襖が目の前で閉まろうとする。

襖が閉まりかけた、その瞬間、僕は見てしまった。

部屋の中央に、自分が立っていたのだ。
血走った目でこちらを睨み、唇をゆっくりと吊り上げて笑っている。そいつは僕とまったく同じ顔、同じ寝巻き、同じ姿をしていた。

驚きと恐怖で固まる中、襖はしっかり閉まり、僕は廊下に取り残された。

“ギシ、ギシ”

再び階段の軋む音が響く。何かが、また上がってきている。

部屋の中にいる“僕”と、階段から登ってくる“なにか”――。
どちらが本物なのか、もうそれすらわからない。

気がつけば朝だった。手のひらも、鏡に映る顔も、いつも通りの自分。あれはただの悪夢だったのだろう。
チェックアウトの手続きを済ませ、旅館の外へ出たとき、ふと胸がざわついた。

ああ、よかった。数十年ぶりに、この廊下から出られた。

※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

斎 透(さい とおる)

◆斎 透(さい とおる)

noteにて短編小説を執筆中の、犬と暮らすアラサー女子です。
やるせない夜にそっと寄り添うような文章をお届けしています。
幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
●note:https://note.com/sai_to_ru

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斎 透(さい とおる)

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幼い頃から、オカルト好きな母と叔母の影響で、不思議な話に夢中に。
「誰でも一つは、背中がひんやりする話を持っている」をモットーに、
ゾッとするけど、どこか温度のある物語を綴っています。
美容やキラキラした話題に疲れた夜、よければ一編、覗いてみてくださいね。
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