当たりの旅館
部活の夏合宿で泊まったのは、古いけれどきれいな旅館。
例年は学校に併設された合宿所を使うのに、その年はなぜか別の場所だったんです。
お風呂も広いし、ごはんもおいしい。みんなかなりテンションが上がっていました。
部屋は5人で一部屋。
真ん中に襖があって、布団を敷くなら入口側に2人、奥の間に3人という感じです。
ただ、布団を敷くと少し窮屈で、自然と襖は開けっ放しになりました。
合宿の夜
その日は練習がかなりきつくて、みんな布団に入る頃にはくたくたに。
私は入口側のいちばん端の布団に潜り込みました。
電気を消して、そろそろみんな眠ったかなという頃です。
なぜか、部屋のいちばん奥で寝ていたミユちゃんが「カヤ、起きてる?」と私に声をかけてきました。
「ねえ、なんで今日いつもの合宿所じゃなくて、ここなのか知ってる?」
「えー……、わかんない」
「ハリセンがさ、ここんちと親戚なんだって」
ハリセンというのは、うちの顧問のあだ名です。
針田(はりた)先生なので、みんなそう呼んでいました。
でも、旅館の名前は針田っぽくなかった気がします。
黙っていると、ミユちゃんはさらに続けました。
「昔、この部屋の押し入れで子どもがかくれんぼしてて、熱中症になったんだって」
「へえー」
「押し入れを開けたらその子が奥でぐったりしてて、そのまま救急車で運ばれたんだって……。それ以来、夏はこの部屋あんまり使わないようにしてたみたい」
なんで今そんな話をするんだろう。
夏に使わないようにしていた部屋なら、今まさに使っているのもおかしい話です。
そう思ったものの、それ以上深く考える気力もなく、そのまま眠ってしまいました。
誰が話してたの?
翌朝、ミユちゃんに「昨日の話、どこで聞いたの?」と聞いてみました。
寝る前のひっかかりが取れなくて、気になっていたんです。
「いや、カヤがしてたんじゃん。その話」
びっくりしました。そんなはずありません。
なのにミユちゃんの記憶では、昨夜あの話をしていたのは、ミユちゃんではなく私だったそうなんです。
気味が悪くなって、顧問の針田先生にも聞いてみました。
「ここの旅館って、先生のご親戚のおうちなんですか?」
すると先生は、きょとんとして言いました。
「いや、俺ここ来たの初めてだけど」
話の内容もでたらめ。誰が話していたのかもわからない。
気持ち悪かったです。
その旅館を合宿で使ったのは、結局その一度きりでした。
次の年からは、またいつもの合宿所に戻ったんです。
なぜかみんなほっとした空気になったのを覚えています。
お風呂も食事も良かったし、残念がる人もいるはずなのに。
もしかしたら、あの夜、別の部屋でも似たようなことがあったのかもしれません。
※この物語はフィクションです。
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◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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