猿夢
「猿夢」っていう怖い話あるじゃないですか。
自分と同じ電車の乗客が順番に怖い目にあっていって、その夢を見る度自分の順番が近づいていくってやつ。
最近、あれにちょっと似た夢を見るんです。
両親の声
決まって終電まで飲んでうっかり電車で寝ちゃう時に見る夢なんですが、ぜんぜん怖くはなくて。
むしろ心地いい夢なんです。
小さい頃、遊び疲れて帰りの車で寝ちゃったことってあるでしょ?
ああいう時って、完全には眠ってないじゃないですか。
うっすら周りの声は聞こえてて、お母さんが「パパ、抱っこできる?」って小さな声で言ったり、お父さんが「起きとらん?」って笑ったりする。
で、よいしょって抱き上げられて、そのままゆらゆら、布団まで運ばれていく。
その時の夢なんです。
夢の中では実家の電球がまぶた越しに少し明るくて、両親が私を起こさないように小さい声で話しているんです。
「もう今日はお風呂いいよね」
「布団まで運んじゃうか〜」
両親の声に抱っこされて、寝ながらぎゅうって抱きついて甘えて。
で、毎回そこで車掌さんに「終点ですよ」って声をかけられて、目が覚めるんです。
このご時世危ないじゃないですか。電車で夢見るくらい熟睡するなんて。
普段は気をつけてるんです。だからその夢を見るのは、だいたい酔って終電で帰る時だけ。
この前も、そうでした。
その日も飲み会の帰りで、最寄りまであと少しだと思いながら座っていたはずなんです。
なのに、いつの間にかまた寝ちゃって、あの夢になりました。
いつもみたいに、よいしょって夢の中で抱っこしてもらったとき、体がちょっと先に夢から覚めたんです。
また電車で座って寝ちゃってたんだ、起きないとって思ったら、耳元で声がしました。
「まだ寝てていいよ」って。
はっとして目を開けると、目の前に車掌さんが立っていて、「終電ですよ」って声をかけられました。
さっきの声と、全然違う声でした。
慌てて電車を降りて、ホームへ転がるように出ました。ちゃんと私の最寄り駅でした。
冷たい夜風に当たっても、しばらく心臓が変な打ち方をしています。
連れていかれる
もしあの優しい声に言われるまま、あのまま眠って抱っこされていたら、私はどこに運ばれていってしまうんでしょう?
なんとなく、行ったらもう戻って来れなくなるような気がします。
でも、次またあの夢を見たら、「寝てていいよ」って言われたら、うっかり寝てしまいそうなんですよね。
あんまりきもちいいから。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。
※表示価格は記事執筆時点の価格です。現在の価格については各サイトでご確認ください。



