違和感
私ね、怖がりなんですよ。
友だちから「想像力豊かすぎ!」ってたまに笑われるくらい。
つい考えちゃうんです。そこにおばけがいたらどうしようって。
駅から家まで帰る途中、なんとなく嫌な感じがする曲がり角があるんです。
大きめの木が1本立ってるおうちがあって、その木の上に、何かいるような気がしちゃうんですよね。
初めて、あれ?って思ったのは夏で、頭の上でガサガサって葉っぱが鳴ったんです。
鳥か猫でもいるのかもしれないと思ったんですけど、なんとなく上を見たくなかった。
自分でも変だなと思います。
でも、1回気になってしまうとやめられないんです。
何か見たわけでもないのに、その木の下を通る時だけ、肩をすくめて早足になってしまって。
重たい気配
冬になるころには、木の葉はほとんど落ちきっていました。
枝の一本一本まで見えるくらいスカスカになっていたのに、それでもあの木の前を通る時だけ、頭の上に重たいものがある感じが消えないんです。
見えないのに、絶対になにかいる。
そうとしか思えなかったんです。
あの角を曲がったら、木の上から何かが降りてくる前に通り過ぎなきゃいけない、という感じがはっきりありました。
きっと、私の想像力が豊かなだけなんです。理由も説明できません。
木の下で立ち止まってはいけない。ゆっくり歩いてもいけない。
とにかく、あそこだけは早く通り過ぎなきゃいけないんです。
ある夜、仕事で帰りが遅くなりました。
冷たい空気の中、道も静かで、靴音だけがやけに響いていました。
あの角の手前まで来た時、今日もまた嫌な感じがして、無意識に息を止めたんです。
角を曲がる。木の下にさしかかる。早く通り過ぎないと、と思う。
でもその日に限って、バッグの持ち手がコートの袖に引っかかって、ほんの一瞬だけ足が止まりました。
指の跡
その瞬間、頭上で、ギシ、と音がしました。
風もないのに、なにかが重たく枝を揺する音。
そのまま逃げるみたいに木の下を抜けた時、バッグの持ち手が後ろへぐっと引かれました。
家まで走って帰って、玄関でようやく息をつき、コートを脱ごうとした時です。
バッグの持ち手に、黒い手形がついているのに気づきました。
偶然なにかが触れたんじゃなくて、しっかり持ち手を掴んだ跡です。
それ以来、あの角はなるべく通らないようにしています。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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