好印象の新たな隣人
隣の部屋に、若い女性が引っ越してきました。
廊下で顔を合わせたときに挨拶をしたのですが、思わず見とれてしまうほど綺麗な人です。
愛想もよく、僕は内心「感じのいい人が隣で当たりじゃん」と思っていました。
数日後、帰宅するとその女性が廊下で大きな段ボールを運ぼうとしています。
「すみません。これ重くて、手伝ってもらえませんか……?」
とくに断る理由もなかったので、僕は快く引き受けました。
ところが持ち上げた瞬間、想像以上の重さに驚きます。
二人がかりでなんとか部屋まで運び込み、指定された場所へ段ボールを下ろしました。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「いえいえ、これくらいなら」
そう答えながら何気なく部屋を見渡して、少しだけ違和感を覚えました。
引っ越してきたばかりとはいえ、あまりにも殺風景なのです。
家具も生活用品もほとんどなく、他の段ボールすら見当たりません。
「せっかくだし、よかったらゆっくりしていきません?」
そう誘われて少しドキッとしましたが、その日は予定があったので断って自宅へ戻りました。
ところが、それからも彼女は何かにつけて僕を部屋へ誘ってきます。
「家具を組み立てるの、手伝ってもらえませんか?」
「また重い荷物が届いちゃって」
「この前のお礼に、ご飯でもどうですか?」
最初は、もしかして好意を持たれているのかと思いました。
しかし、知り合って間もない男を何度も自宅へ招こうとするのは、さすがに不自然です。
綺麗な人ではあるけれど、なんだか怖い。
次第にそう感じるようになり、僕は理由をつけて誘いを断るようになりました。
消えた隣人
それからしばらくして彼女の姿をぱったり見かけなくなったのです。
数日後、僕の部屋を警察が訪ねてきました。
隣の女性が行方不明になり、部屋から大量の血痕が見つかったというのです。
防犯カメラには僕が彼女と一緒に部屋へ入り、重そうな段ボールを運び込む姿が残っていました。
「あの日、運んでいた箱の中身は分かりますか?」
そう尋ねられましたが、僕は当然分かりません。
しかも室内からは、僕の指紋まで複数見つかりました。
荷物を運んだ日、彼女に頼まれて椅子や小さな棚を動かしたことを思い出します。
幸い、その後の捜査で僕への疑いは晴れました。
しかし、警察からもう一つ奇妙な話を聞かされます。
彼女が契約時に使った身分証は偽物で、名前すら本名ではなかったそうです。
そこで僕は、何度も部屋へ誘われていたことを思い出しました。
もし、あの誘いを断っていなかったら。
もし、何度も部屋へ出入りして、もっと多くの場所に指紋を残していたら。
彼女が見つかっていない今、何を考えていたのか、僕が何に巻きこまれようとしていたのかは分からないままです。
※この物語はフィクションです。
※記事に使用している画像はイメージです。

◆さしすせそそぎ
怪談や都市伝説、モキュメンタリー作品が好きで日頃からさまざまなホラーコンテンツに触れています。不気味な余韻が残る物語や「読まなければよかった」と思いながらも続きが気になってしまうような怖い話をお届けできればと思っています。
特に、人の悪意や心理が生み出す恐怖を描いた作品や読み終えたあとにもう一度振り返りたくなるような意味が分かると怖い話、ひんやりとした読後感が印象に残る物語が好きです。
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