山の中の神社
建物の調査関係の仕事をしています。
自治体からの依頼で古い家や使われなくなった建物を見に行くことが多くて、そのときはある案件で山の中にある古い神社へ行ったんです。
もう何年も使われていない神社とのことでした。
参道には草が生え、木造の建物もかなり傷んでいます。
「これはもう誰も来てないな」と、すぐにわかりました。
ただ、一か所だけ何か妙にきれいだったんですよね。
拝殿の前です。
参道は落ち葉だらけなのに、そこだけきれいに掃かれていました。
「近所の人が今でも手入れしているのかな」
そのときは、それくらいにしか思いませんでした。
誰が掃除している?
それから何度か、状態確認のために神社へ行きました。
行くたびに、拝殿の前だけはきれいなんです。
気になって、近くに住んでいる方に聞いてみました。
「あの神社、どなたか掃除されてます?」
「いや、誰も行かないよ」
神社を管理していた方はずいぶん前に亡くなっていて、そのあとを継ぐ人もいなかったそうです。
「でも、拝殿の前だけいつもきれいなんですよ」
「ふうん?なんか不思議だねえ」
本当に何もご存じないようだったので、それ以上聞くこともしませんでした。
古い箒
次の確認日は、いつもよりかなり早い時間に行きました。
誰かが掃除しているなら、朝に来ているんじゃないかと思ったんです。
神社に着くと、境内には誰もいませんでした。
でも、拝殿の前はすでにきれいになっています。
しかもその日は、端のほうに古い竹箒が一本立てかけてありました。
今まで見たことのない箒でした。
地面には新しい掃き跡も残っています。
ついさっきまで、誰かがここにいたようにしか見えませんでした。
「すみませーん」
声をかけてみましたが、返事はありません。
拝殿の裏も確認しましたが、誰もいません。
それなのに、地面には足跡がありました。
まるで裸足で歩いたような跡です。
足跡
足跡は、拝殿から境内の端へ向かっていました。
その先は草が伸び放題になっていて、山の中へ続いています。
「不法侵入かもしれない」と、写真を撮ろうとして、ふと気づきました。
足跡は拝殿から山へ向かっている。
誰かが掃除を終えて、山へ帰ったように見えます。
でも、山から拝殿まで続く足跡はどこにもないんです。
確認しましたが、拝殿に誰かが寝泊まりしている形跡はありません。
毎朝、いったい誰が、荒れた神社から森へ帰っていくのか……。
それ以来、その神社には一人では行かないようにしています。
今も確認に行くたび、拝殿の前だけはきれいに掃かれています。
※この物語はフィクションです。
※この記事に使用している画像はイメージです。

◆味醂
子どもの頃から怖い話が好きで、ホラー小説やネット怪談など、文章作品を中心に親しんできました。
映像作品の痛そうな表現や急に驚かせる演出は少し苦手ですが、想像がふくらむ怖さや、日常の違和感が少しずつ不穏さを増していくような話に惹かれます。
読んだあとふとした瞬間に思い出してしまうような“あとから効いてくる怖さ”を大切にしています。
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